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母の誕生日(3) [母の弔い]

今日は、母の誕生日で。
あの忌まわしい日がくることなく、平和に生きていたら、今年で七十九歳。

今年も、私は、朝の掃除などのルーティンの後。
仏壇に御参りをする際、お菓子をお供えして、ハッピーバースディを歌った。

母のいない誕生日は、これで五回目。
そして、新居で迎える三度目の誕生日。

三年前の夏、新居を構えた私は、親の本籍から分籍し、そして。
三年前の今日、新居に住民票を移した。

そして……。
三ヵ月半もかかってしまった、あの地獄の引越しから、もう、三年がたとうとしている。

母が逝ってから、旧宅で過ごさざるを得なかった、一年十一ヶ月の、時間が止まってしまったかのような悪夢の長さに比べたら。
この三年は、それなりにいろいろあったにせよ、それでも。
時が一定の速度で流れて、こうして、今に至っているのを思って、そして。
時間の効用は、そんなかたちでも、あらわれるのか、と……。

というのも、今の私は、もう。
あの地獄ををリアルに思い出すことが、できないくらい、それらは、遠い過去の記憶にまぎれてしまいつつあるからなのだ。

今でも、薬局の窓から外を眺めていると。
ちょっと先に見えるバス停に降りた母が、生前よくやってたように、笑顔でこっちに手を振っている。
そんな姿が、ひょいと現れそうな錯覚に陥ることが、いまだに、ある。
……まぁ、もう、それを思っても、涙は出なくなったけど。

……母は、もう、この世に体がない、から。
母の骸(むくろ)は、焼いて、骨にして。
私が最後のひとかけらまで、拾ったのだから。

母が現れることは、もう今生では、二度と、金輪際ないのだ、と……。

それを、最近、やっと、感情が納得しつつあるかなぁ、と……。

出勤前、総合警備保障の機器の上の、母の満面の笑みの写真に。
「今年の誕生日のプレゼントは、茄子紺の夏の着物だよ」と言って、ドヤ顔をする私。
「貴方を旅立たせた時、お棺の中に羽織らせた、お祖母ちゃんの夏の着物を染めたのと、同じ色」

「じゃぁ、あの世で、おそろいに、なるね~」

……と、母が言って、ホントウに嬉しそうに笑った気が、した。

そんな写真の母は、七十四歳のまま。
そして、私は、あれから五年生きて、今、こうしてここに居る。

今日の薬局は終日激多忙で、おまけに夜は馬鹿馬鹿で。
母の誕生日の余韻に浸る余裕なんか、全然なかったけど。
それでも母は、こんな私をあの世からみて、きっと、きっと。
精一杯、応援してくれていることだろう。
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ちょんまげ侍金四郎

「時間と記憶」ってお薬みたいですね。
効能は「悲しみを和らげる」
でも副作用もあって「まれに近々のお約束等を忘れると大変なことになる」みたいな(笑)
by ちょんまげ侍金四郎 (2012-06-22 07:43) 

ミィシャ

ちょんまげ侍金四郎さん、nice&コメントありがとうございます。

人は、ある程度、忘れられるから、救われるのかもしれません。
でも、一生忘れられないコトも、あります。
母を失ったあの瞬間のコトは、一生忘れられないでしょう。

……それでも、あれから、5年がたとうとしています。

ここまで、こうして生きてこれた自分を、過去の自分に見せてやりたいです。
励まされてくれるだろうか……。
それとも、ここまでの辿った過程を知ったら、逃げ出してしまうだろうか……。

逃げても、幸せにはなれないんですけど、ね。(^^)
by ミィシャ (2012-06-22 22:43) 

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